皆さんは、ご自身や、ご自身の父親・母親が万が一、認知症になった場合や脳梗塞を発症し、判断能力が低下したときを想像したことがありますか?

たとえば、賃貸不動産のオーナーである高齢の父親が、所有しているマンションを売りに出している場合を考えてみましょう。

(こちらもご参照ください)

家族信託の仕組みと活用ほ方法〜認知症対策の家族信託〜

1.高齢の父親の賃貸不動産売却

父親は高齢であり、賃貸不動産の管理も大変ですし、時々、うっかりミスが出てくるようになりました。

足腰も弱り、心身ともに負担が大きくなってきた様子です。

高齢の父が生活しやすいよう、家の廊下に手すりをつけたり、段差をなくしたりと、住居のリフォームも必要になりそうです。

また、数年後には、介護費用や介護施設入居の際に、まとまった出費も予想されます。

さらに父の死後、相続を見据え、資産整理をはじめようと、父所有の賃貸不動産の売却をすることを決めました。

賃貸不動産の売却を決めてから数ヶ月。

買い手の募集を続け、ようやく買主が見つかりました。

所有者である父親が、買主とのあいだで、所有していた不動産を売却する売買契約を結びました。

しかし、マンションの引き渡し・決決までは、契約してから、さらに1ヶ月ほど時間が必要です。その1ヶ月の間に、なんと、所有者であるお父様は認知症と認定されてしまい、取引がストップ。

この場合、この父親所有の不動産は、売買契約を完了して引き渡すことができなくなっていまいます。

2.病は突然、誰にでもおこる

まさか、このような事態が自身に起きるはずがないと思いますか?

ある調査では、85歳の55パーセントが認知症であるという結果が出ています。

このような状況が起きることは、決して他人事ではありません。

近い将来に自分自身に十分起こり得る可能性のある、重要な問題なのです。

また、認知症のみならず、不動産所有者が脳梗塞を発症し、判断能力の低下が起きた場合には、不動産の売買契約のみならず、賃貸不動産入居者との賃貸契約や、さらにはその不動産の建て替えなどもできなくなります。

3.もしも……家族信託契約をしておけば

それでは、上記のケースで、父親が元気なうちに、家族信託契約をしていたらどうだったでしょうか?

まず、家族信託契約が結べるのは父親が元気なあいだだけという前提条件があります。

そして、父親が「委託者」兼「受益者」になります。

息子が「受託者」になる家族信託契約を結びます。

家族信託契約締結後、不動産の管理は受託者である息子が担います。

賃貸不動産からの収益は、受益者である父親が受け取るスキームを組成しておきます。

契約条項には、父親の意思能力が低下した場合であっても、受益者である父親の生活を保護するため必要な場合場合には、賃貸不動産を売却することもできるとしておきます。

そして、父親に介護が必要になりそうだ、父親の老後の生活を支えるためにまとまったお金が必要だというタイミングが訪れた際に、受託者である息子さんが、家族信託契約の内容に基づき、信託財産である不動産を売却を決定することもできます。

先にも述べていますが、受託者が信託財産を売却するためには、信託の目的に基づき、信託財産を売却できる旨の条項が、家族信託契約に入っていなければ売却できません。

つまり、家族信託契約を結ぶ際に、数年後を見据えていなければならないということです。

家族信託の仕組みについてはこちらもご参照ください。

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